
セイ・コンサルティング・グループ(株)の 山崎有生氏に「ITSS」(ITスキル標準)をわかりやすく
解説して頂きます。
ここは (株)名古屋ソフトウェアセンターのオフィスです。
名古屋市内のIT企業X社(従業員数:約100名)の前田社長がITSSの導入について
専門家アドバイザーの山崎有生氏(セイ・コンサルティング・グループ(株):中小企業診断士)に
相談しています。ITSSは初耳の前田社長。さて、どうなることでしょう。
▼前田社長
最近、私の周りではITSSという言葉を良く耳にするようになってきました。ITSSとは何ですか?
◆山崎アドバイザー
ITSS(アイティエスエス)とは、ITスキル標準(IT Skill Standard)の略です。 ITスキル標準とは、経済産業省が2002年に公表したIT関連サービスの提供に必要な実務能力を体系化した指標です。 この図のように横方向に11職種・35種類の専門分野を定義し、縦方向に個人の能力や実績を7段階のレベルで設定しています。 ITスキル標準とは簡単に言えば、ITスキルの指標="ものさし"だといえます。
ITスキル標準フレームワーク
(ITスキル標準11職種35専門分野 出典:情報処理推進機構(IPA))
▼前田社長
なになに、マーケティング、セールス、コンサルタント…エデュケーション、なるほどこの業界の職種は一通りありますね。 レベルはどんなイメージなのでしょうか?
◆山崎アドバイザー
レベルは大まかにエントリーレベル、ミドルレベル、ハイレベルの3段階で考えてると分かりやすいと思います。 エントリーレベルとは他者の支援を得て業務を完結できるレベル、ミドルレベルとは自分自身で業務を完結できるレベル、 ハイレベルは他社に影響を与えることの出来るレベルです。 詳細は以下の表が参考になると思います。
(ITSSのレベルの概念 IPA)
▼前田社長
色が付いているところと付いてないところがありますが意味はあるのですか?
◆山崎アドバイザー
はい、色が付いてないとことはその職種にそのレベルは無いということを意味しています。 例えばコンサルタントでレベル1、2、3はありえないということです。
▼前田社長
ITSSが策定されたことの意義は何でしょう?
◆山崎アドバイザー
3つあると思います。まず、1点目は、スキルの可視化ということです。目に見えないものはマネジメントできません。 ITスキルは目に見えないだけにマネジメントができませんでした。これを見えるようにすることによってITプロフェッショナル個人、 ITベンダー、ユーザーが共通の定義でスキルをマネジメントしてゆこうという発想です。
▼前田社長
「目に見えないものは管理できない…」。確かにそうですが、当社は社員の自主性を重んじています。管理主義は好きではないんですが…。
◆山崎アドバイザー
すばらしいお考えですね。もちろん、管理といってもいわゆる社員をガチガチに縛るということではありません。 今まで曖昧であった個々人のスキルが可視化されることでITベンダー経営戦略を立てやすくなったり、従業員の方々はキャリアプランを立てやすくなったり、 ユーザー企業は人材調達がスムーズになったりといった効果があるのです。 (この点についてはまた次回以降詳しくご説明いたします。)
2点目は、スキルの"ものさし"であるということです。つまり、「スキル=できる」の尺度であって、 「知識=知っている」の尺度ではないという点です。 知識の"ものさし"としては情報処理技術者試験があります。ご存知の通り、この試験は、経済産業省が情報処理技術者としての「知識・技能」の水準がある程度以上であることを認定している国家試験です。 しかしながら、「知識があること」=「実務能力があること」とは必ずしも言えませんでした。私の定義では、「スキル=経験+知識」です。ITSSでは、「達成度指標」という概念を使い経験と実績を見ることを重要視しています。
▼前田社長
知識があることが前提ですが、経験と実績の方が仕事を任せる上では当てになりますからね。しかし、当社では国家資格取得を奨励しています。 今後、今までのような資格制度はなくなってしまうのでしょうか?
◆山崎アドバイザー
いえいえ、決してそのようなことはありません。現に経済産業省でも情報処理技術者試験とITスキル標準との対応(※1)について文書を発表していますよ。今後は、ITSSと対応させた形で各試験の位置づけや内容が決まるようです。
▼前田社長
なるほど、安心しました。と同時に目が離せませんな。
◆山崎アドバイザー
そして、3点目は、ヒューマンスキルを重視していることです。IT産業は大きく捉えればサービス産業ですから対人能力が重要なことは言うまでもありません。 ITスキル標準でも、「コミュニケーション、ネゴシエーション及びリーダーシップについては、研修などの教育・訓練である程度十分な育成が行えることに加えて、 近年、サービスビジネスとしてその重要性が叫ばれていることから、 全ての職種にわたってスキル項目として盛り込んでいます。」(※2)と明確に述べられています。
▼前田社長
当社でもヒューマンスキルについては問題意識を持っていました。社内で一番人数の多い技術者が高い技術力と交渉力を兼ね揃えることにより、 あと10%でも売り上げに貢献できれば、会社全体の売り上げが110%になりますから。 人数の少ない営業が200%のがんばりを見せるよりインパクトが大きいのです。
◆山崎アドバイザー
それと、以前からプログラマーからSEになるところで大きく仕事の内容が変わってしまい、上手く適応できないエンジニアがいたことも指摘しておきたいですね。 いわゆる要件定義や、仕様変更の部分です。そうならないように育成してゆきましょうという啓蒙でもあると思います。
▼前田社長
いま、火を噴いて大変なことになっているプロジェクトの原因を調べてゆくと技術的な要因は少なくて、ヒューマンスキルが原因だったりするわけです。 現在のようにユーザーニーズが多様化して、技術も多様化すると一人でシステムの全てを把握することはできなくなります。 すると、この業界の仕事は個人作業ではなくチームで行うことが増えるわけですが、顧客対応から仕様書の作成、プロジェクトメンバーの動機付けにいたるまでなかなかちゃんとこなせる人材は少ないですね。
◆山崎アドバイザー
ご苦労お察しいたします。
▼前田社長
ところで、経済産業省ということは国が作ったということですね。何のために国がITスキルの"ものさし"を作る必要があったのでしょうか?
◆山崎アドバイザー
一つには、「e-Japan計画」を人材面から支えるという目的があったためです。「e-Japan計画」とは、ご存知のことと思いますが、 日本政府が進めている世界最先端のIT国家を実現するための国家戦略です。 当計画の重点課題として、「高度ITプロフェッショナル人材の育成」があり、それを実現するための「スキル指標」として作られたのです。 もう一つは、インドや中国をはじめとしたアジア諸国が、高度なIT技術と安価な労働力を武器に台頭してきており、 こうした面からも国内のIT技術者の質的向上を図る必要があったからです。既に一部の県では発注要件にITSSが使われ始めたそうですよ。
▼前田社長
なるほど、当社もこの流れに乗って売り上げを伸ばさねば。
◆山崎アドバイザー
経済産業省では、その後、2005年5月に組込みスキル標準 (ETSS)(※3), 2006年6月に情報システムユーザースキル標準(UISS)」を相次いで公表しています。(※4)それでは、次回はITSSの活用方法について一緒に考えることにしましょう。
※1 経済産業省 情報政策 「情報処理技術者試験 とITスキル標準との対応」参照
※2 情報処理推進機構 ITスキル標準センター 「スキルの記述範囲」参照
※4 情報システムユーザースキル標準(UISS)の公表について
解説者紹介: 山崎有生 氏
セイ・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役
【略歴】
2000年:セイコンサルティング・グループ創業
社是は、「Self-Actualization for You 自己実現をあなたに!」
2003年:ITSSとの関わりでは、全国の情報サービス産業協会等において、
導入に関する研究会・コンサルティング活動をコーディネート。
また、ITSS運用のためのヒューマン・テクニカルスキルの研修を提供している。
資格は中小企業診断士